最近読んだ小説の中で、感想を残しておきたいと思ったものをご紹介します。
①「今日未明」辻堂ゆめ
新聞の片隅にしか載らないような小さな事件。
その背後にはどのような経緯があったのかを描く人間ドラマ。
「今日未明」というのは、よくテレビや新聞でニュースが報道されるときに「今日未明、〇〇県〇〇市の住宅で…」と耳にすることが多いことから来ているようです。
どのような事件があるかというと、
■自宅で血を流した男性死亡 別居の息子を逮捕
■マンション女児転落死 母親の交際相手を緊急逮捕
■乳児遺体を公園の花壇に遺棄 23歳の母親を逮捕
■男子中学生がはねられ死亡 運転の75歳女性を逮捕
■高齢夫婦が熱中症で死亡か エアコンつけず
こう言ってはなんですが、よく聞く事件だからこそ、「あぁまたこういうニュースか」と聞き流してしまうような事件。
それぞれの話の冒頭には、まず新聞報道のように事件のあらすじが書かれているので、誰が誰に殺されたのか、読者は分かったうえで話を読み進めていくというスタイル。
会話劇が多い小説は、他のジャンルの本に比べるとどんどん読んでいけるのですが、本書は1日1話ずつしか進められない…というぐらい読後感は重たいものでした。
犯罪は絶対に許されないという確固たる自分の倫理観のようなものが、いちいち揺さぶられる。そして「どうせこういう事件でしょ」と決めつける先入観の危うさを、まざまざと見せつけられる。
辻堂ゆめさんのご著書は初めて読んだのですが、主にミステリ作家としてご活躍されているとのこと。
辻堂さんが出ておられるYouTube動画の中で、「人間の心が一番のミステリー」というようなことをおっしゃっていたのが印象的でした。
謎解き、トリックを解くという楽しさもあるけれど、そこに至るまでの人間心理にこそ謎がある。
話はそれますが、小学生の時にハマっていた「名探偵コナン」。
コナンがトリックを暴いていくシーンが見どころなのですが、犯人が必ず最後に動機を語る場面があるのです。子どもながら、トリックよりも最後の自白シーンの方が面白く感じてました。
実は双子だったとか、実は家族関係がこんがらがっていたとか、いろんな事情が複雑に絡み合って事件に繋がっている。これこそがまさにミステリー。
「今日未明」は、読んでスッキリするというよりは、心の真ん中が重たくなるような本でしたが、でも読んでよかった!
さらにもうひとつ、「今日未明」というタイトルが秀逸やなぁと、誰目線な感想ですが。
日常会話ではあまり使わない言葉で、主にテレビやネットニュースあるいは新聞の報道で見聞きすることが多い。そして、今日未明に続く内容は、どちらかというとネガティブな事件や事故が多い印象があります…(わたしだけ?)
もちろん微笑ましい出来事や嬉しいニュースであることもあるのですが、今日未明という言葉に、すでに不穏な空気感が漂っていると言いますか。続きも気になる良いタイトルやなぁ。

②「平凡」角田光代
角田光代さんは昔から好きなので色々読んできたと思っていたのですが、図書館で角田光代さんの棚を眺めていると「これまだ読んでないな」と気付いて借りた本。
もし、あの人と別れていなければ。結婚していなければ。子どもが出来ていなければ。仕事を辞めていなければ。仕事を辞めていれば……。もしかしたら私の「もう一つの人生」があったのかな。どこに行ったって絶対、選ばなかった方のことを想像してしまう。あなたもきっと思い当たるはず、6人の「もしかしたら」を描く作品集。
この中で、料理写真を毎日ブログにアップする主婦の話が出てきます。
そこの一部分の文章をご紹介。
「今の日々が充実しているとブログで知らせたいのは、別れた男でもその原因の女でもない、「もし」で別れた、選ばなかった私自身だ。」
SNSは他者に承認欲求を満たしてもらうためと思いがちでしたが、もう一つの人生を歩んでいたかもしれない自分自身に一番認めてもらいたいのかも。という視点は、わたしにとって小さな発見でした。
今の生活に不満があるわけではないし、むしろ恵まれているとも心底思っている。でも、悪い意味でなくても「もしもあの時」と考える瞬間はあるわけで。
選ばなかった自分から承認されたいというのは、実は少なからず色々な人にあてはまるのかもしれません。

③「パパたちの肖像」
「イクメン」が死語になって久しい令和。家事も育児も当たり前に行うパパたちの胸の裡は?
7人のパパ作家による、令和パパたちの心の声。
わたし自身が子育てに向いていない、どうすればいいのか悩んでいるけれど、男性としてはもっと別の観点からの悩みや葛藤があるのだということに気が付いた作品。
突然親になる、母乳ではあやせない、仕事との折り合いプライドなどなど。
母親もゼロ地点から右も左も分からないところからスタートだけれど、父親は右左どころか上下もわからない、今ゼロ地点にいるという認識も芽生えるタイミングも不明確。生物学的にそれは仕方のないことだけれど、それがとても伝わってくる短編集。
ここで思い出したのは、三宅香帆さんの「話が面白い人は何をどう読んでいるのか」という本に書かれていた内容です。
「女性の方が「自分はどう生きたいか」を早めに決めなくてはいけない。つまり欲望の主体になることを求められる社会ではある。子供を産みたいのか産みたくないのか、仕事をどれくらい頑張りたいのか。」
つまり、女性は適齢期になると、結婚妊娠出産をどうするかという問いがどうやったって付きまとうし、年齢によって制限されることが多い=男性よりも生きづらいと思ってきたけれど、男性よりも早い段階から自分の人生について主体的に欲望することができる設定になっているのかもしれない。男性は制限がないゆえに、とりあえず社会の欲望に沿うように、選択肢を狭めないために生きている。これが良しとされることを、とりあえずやっておく。だから自分の欲望がわからない。欲望の主体となる機会が少ないから。
そういう意味でも、女性は初めての育児に戸惑いながらも、ある程度の情報収集を無意識のうちにしてきたり、覚悟できていたりもする。
男性は、身体的な変化がないことはもちろん、精神面的にも文字どおり、ある日突然父になるわけで。
だからこそ、ある意味では女性よりも何につまずくのか想像できていなかったり、戸惑うのかもしれない。
こういうジェンダーの違いをはらむ読み物って、書き手が女性か男性かで偏りがち。偏ってなくても読者が勝手に書き手の性別から判断しがち。
小説だからこそ、押し付けがましくなく男女の性差を描けるような気がしました。

④「女の国会」新川帆立
あるひとりの女性国会議員が亡くなったことから始まる政治ミステリー。
面白いのは、高市さんが首相になる前に書かれた物語だということ。まるで女性首相が誕生することを予見するような、女性が主役の政治物語。
続きが気になって一気読み。ミステリーだけに終盤に明かされる様々な秘密はもちろん、女同士の人間模様がたのもしく描かれています。

⑤「世界99」村田沙耶香
話題書だとは知りつつ、少しファンタジー要素があるのかなと手に取っていなかった小説。
たまたま図書館で見かけたので、この機会に読んでみようと借りたのですが。
上下巻合わせてかなりのページ数、早く読み切ってしまわないと、そっちの世界に持っていかれそうな危機感を伴いながら読みました。
最初の方は、属している世界ごとに呼応とトレースを繰り返す主人公・空子の物語メイン。
ここはファンタジーではなく、ものすごくリアルで、令和の今を風刺しているかのようにも感じました。
わたしも、家族、会社、友達、SNS、など、その時々の場面によって少し人格が変わっているなと感じることがあります。意図的にというよりも、その場所での最適化をはかっているような。言動、立ち振る舞い、リアクション。(全部同じか)
だからこそ、わかるーと共感しながら読み進めていたらどえらい事に。
途中、完全脇役だったピョコルンが台頭してきて、どんどんダークに。こんなこと起こらないだろうと思いつつ、数十年後にはもしやこうなっている可能性もあるなと感じてしまうリアルさもあり。
AI時代の今、もしチャットGPTなんかがピョコルンになったら…。
早く読み終えないと、なんか怖い。
という気分で読み切った長編でした。
